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Feature 03

非凡な男の情熱を
映す酒。

酒蔵は人だ、と常々思ってきた。
性だとか世代だとか、人を一括りにするのは、あまり好きではないが、酒蔵で蔵元に「ここらあたりの人はこういうところがあって」と言われたりすると、なんだか急に腑に落ちてしまう。
 福井県鯖江市で160年以上にわたって酒を造ってきた加藤平吉商店は、銘酒で梵で日本はもちろんのこと、世界でもその名を知られつつある。

 

   さて、蔵元はというと、たぶんものすごく離れた場所からでも、そこにいるのがわかるくらい、はっきりした面立ちで、たとえば昭和のオールスターが大集合する忠臣蔵なんて撮ったら確実に四十七士の重要なキャストになるくらいの存在感がある。けれど、一言話し始めると、立て板に水で、しかも随所で笑わせる。

  道道、ずっと笑いっぱなしで案内された先には、本当にどんなに徹底した懐古趣味の人間でも、うんと納得してしまうような建物と、えっと思うほどの近代的な建物が同居した区画があって、それがどれもこれも加藤平吉商店、すなわち梵のものだった。
「マグニチュード7まで大丈夫な耐震設計なのね」
   蔵元はいつもの口調で話すが、これは近年、多くの酒蔵が不幸にも災害にあっている状況を考えれば納得がいくものであると同時に、相当の覚悟をもっておこなわなければならない、徹底的な設備投資である。じっとただ伝統を守る、環境を甘受する、というような姿勢とは対極の、せめる姿勢である。

順を追って酒造りを見たけれど、あらゆる工程で徹底して温度をコンピューター管理し、空調も全館規模で万全。発酵も常に数値を測定、記録するなど、驚くほどにIT化している。

  一方で物理的な面でもイノベーションが数多くおこなわれている。

伝統とイノベーションと地元の技

  たとえば、甑のシステムは、多くの蔵でおこなう方式、つまりは巨大な蒸し器を単純に何層にもかさねて米を蒸すスタイルで、蒸し器の一番底に位置する米は通常潰れて溶けてしまったりするところを、梵では蒸し器の一番底の部分に人工の、疑似米をしきつめているのだ。こうすることで、全体にムラなく無駄なく蒸しあがるようにしている。

「この疑似米ね、これは、鯖江の、そう鯖江って何の街ですか?」

とクイズ番組の名MCさながらに出し抜けに質問してくる蔵元に、こちらも得意になって、

「メガネです」

  と答えると、大喜びでうなずいてくれた。そして

「メガネの研磨の技術を使って、この疑似米を本物の米と同じレベルに削ってあるわけですよ」

という。この人のこの人柄だから、地域の横のつながりが、想像以上にスムーズにおこなわれているのだろう。「こういうのできなーい?」と愉快な口調で相談されたら、頑固な職人も、一丁やってる見るかと思ってしまうような気がする。

 

コンピューターと砂時計、ハイテク精米をリーダーシップ

  さらには、この酒蔵は自家製米なのだけれど、そのシステムが素晴らしい。これも蔵元自ら設計したという。精米をする上でこわいのは、精米をする際に出た粉塵が機械につまって、爆発を起こすことである。粉塵爆発は精米所にとって最も恐ろしい事故だが、ここの精米所に足をふみいれてみると、むしろ精米所の外よりも空気が澄んでいる。粉塵を耐えず外へ出す独自のシステムを導入したうえに、全行程を可視化。さらには、工程のすべてをセンサーで感知し、これを電波で飛ばして、酒蔵内で共有している。

「電波で情報を飛ばすっていうとこれ大丈夫って思うでしょ、でもセキュリティは万全にしてるのね」

   という。蔵元の顔を見ていると、これは、一分のスキもないな、と思うのだが、次の瞬間にはダジャレを言っていたりする。

  一方で、蔵では、製麹の現場には、普通の砂時計が置かれていて、それを使って時間を図っていたりする。そのほうが、間違いがないらしい。つまりいいものは、どんなにプリミティブでも残す、のが加藤平吉商店流なのだ。おそらくは、この蔵の数々の工夫は、ぐいぐいと引っ張るリーダーシップなしに実行しえない。けれど、そのリーダーシップは、どこかで、きちんと遊びをもたせた、決して張りっぱなしの緊張ではない。それこそ、昔も今も変わらない、蔵元のありかたなのではないか。何人か蔵人にも会ったけれど、彼らは、マスクや帽子をかぶっていても、どことなく個性が強く思えたのは、蔵元が醸し出している空気の、風通しのよさなのかもしれない、とちょっと確信めいた気持ちがわきあがったのである。

「まじめで愉快」蔵元の人柄みたいな酒

 蔵を一通り見て、仕上がった、しぼりたての梵をきゅっとやったら、これが、まあ、見事に旨い。傍で自信に満ちた蔵元の顔を見たらさらに旨さがいやました。全体にはすきっと、口中でもキレがいいのに、鼻先から喉にかけて、濃厚なコク深さが、単純に濃い香りとしてではなく、香りと味とが一緒になった、塊のような「印象」として残る。

 そして、いつの間にか、虜になるわけだが、なんだか、それは、蔵元の人柄にも似ているどころかそっくりなのであった。まじめで愉快。こういう酒は、頼りになる。  

 
梵 超吟 BORN Chogin
完全予約限定商品
使用米
兵庫県特A地区産契約栽培山田錦100%
精米歩合
20%
容量
720ml瓶
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