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Feature 02
獺祭
明日を見つめている
酒蔵の視線の先。

山口の山奥の小さな酒蔵へ。

ほんとうに山奥だった。

獺祭といえば、「山口の山奥の小さな酒蔵」と染め抜かれたのぼりを何度も目にしてきた。したがって頭の中に山奥であることはインプットされていた。しかるに、岩国空港から車で獺祭を造る旭酒造へ向かう道のりで、どんどん人里から離れていくにつれ「この道であってるのかな」と若干不安をおぼえたのであった。とはいえ、名酒の誉れ高き獺祭だから、神韻縹渺たるところで作られるものであろうと、自分を納得させようと思ったけれど、実際にたどりついた酒蔵は、神韻縹渺という雰囲気ではなく、どちらかというとSF映画のセットのようだったのである。

もちろんあたりの自然はまさに民話の世界、夜は射干玉の闇、というくらい暗くなるのが容易に想像できるほど街灯のたぐいも人家もまばらである。そして、「ここが旭酒造さんです」と案内されて車を降りて辺りを見回し、思わず聞きたくなるのであった。

「どこに蔵があるんですか」

「これです」

と言って振り上げられた手の先には、真っ白いビルがある。酒蔵といったら木造で二階建てくらい。酒造りの工程にしたがって横方向に作業工程が進行するように横長の建物を思い浮かべがちだ。ところが、旭酒造の「本蔵」は、背後に山があり奥行きはあまりない。一方で縦にずーんと高くて12階建。さすが、「磨き二割三分」、「杜氏を置かない」、「コンピューターの積極的導入」など、さまざまな既成の酒造りセオリーを覆してきた酒蔵である。

実際に足をふみいれると、これはやっぱりSake BreweryというかSake Factoryといった趣である。まずは不織布の服を纏い、後れ毛なんて普段気にしないが、うなじあたりの髪もちゃんと服と同素材の帽子のなかにおさめる。そしてエアシャワーをざばーっと浴びる。

それから磨きから順に工程をおっていく。外の景色は見えない。徹底的に空調管理されていて、「どんな環境下でも可能な酒造りの実験」をしているような雰囲気さえ漂う。
蔵人は、ほかの蔵とくらべて若い。だからといって、ハイタッチやら大音量の音楽などが流れるわけもない。声もほとんど聞こえない。一方で、働く人のかっかとした熱量を感じるかというとそうでもない。

それぞれが役割に徹しているから、無駄な熱を発しない。平熱の情熱みたいなものなのだろう、ここに漂うのは。そして、平熱ゆえに、こりかたまらない。挑戦をつづけられる。

果てしないトライアンドエラー

蔵を見るにあたって、旭酒造の目指すところを聞いたら、桜井社長は 「ちょっとでも昨日より旨い酒を造りたい」 と言った。
伝統を重んじる業界にあって、これはその根本を揺るがすくらい重みがある。それも、蔵人、そして蔵全体に平熱の情熱があるからこそ、目指せるのだろう。

だから、旭酒造ではトライアンドエラーをつづけてきた。
かつて世間をあっといわせた「獺祭 磨き二割三分」も、その一つだ。それは当時の常識を打ち破る、山田錦を77%も磨いたものだった。先代蔵元が「日本一磨いてみよう」と思ったある種の遊び心をきっかけにしたもので、成功が約束されていたものではなかった。大冒険をあえてやってみる。そこでとんでもないことにならないのは経験と技術と、それを下支えする落ち着いた情熱があるからだろう。
ざっと見るだけで、この酒蔵は新しいことにつぎつぎとチャレンジしてきたことがわかる。洗米も水分量を0.1%単位でコントロールしているし、麹作りもコンピューターが徹底的に管理している。地元の空調屋が協力した、この酒蔵でしか使用されていない綿布をしようした特殊な除湿装置なども導入されている。ほんとうに、いい意味で、貪欲なのである。

でも、酒を造るという意味では、なにかを省いたり諦めたりしているわけではない。同じ酒造り、なのである。いや、いや、まて。そうだ。ここは、同じ酒、を造っているわけではないのだ。獺祭という酒を作っているのである。そのためにすべてを集中させている。

旨い日本酒は宇宙を目指す

酒は究極、飲めばわかる、ものである。獺祭といえば、今や世界的にも著名になり、飲める場所もそれなりに限られている。旨い料理をさらに旨くし、一皿と一皿の間、ただその酒を呑んだとき、また、新しい旨さの発見がある。そういう旨さをもった酒なのである

もちろん世の中にはいろんな「旨さ」がある。で、旭酒造は、「旨い酒」のタイプを「山田錦のみを使った吟醸酒」にしぼりこみ、それを獺祭とした。その獺祭を造るために人の手も機械もふくめたあらゆる技術を注ぎ込んできた。集中してきた。たとえばその典型の一つが12階建ての本蔵だ。要は、狭い場所で合理的に酒造りをするには縦に工程を進めるのがよかったわけだが、そこまでするのは、この酒蔵が、素晴らしい酒(昔のやり方なら少量しか作れなかったもの)を、できるかぎり、多く作るためなのである。

2018年、中国地方を襲った豪雨によって、旭酒造も被害をうけた。それでもこの本蔵自体はびくともしなかった。一層、酒造りに力がこもるが、この本蔵には、やはり平熱の情熱が漂いつづけるのだろう。そして、おそらく今日も昨日より旨い酒が世に出ていくのだ。

そして、明日を見つめているこの酒蔵の視線の先には、さらなる未来がある。
「やっぱり宇宙で最初に飲まれる日本酒にしたい」
と本蔵で出迎えてくれた桜井一宏社長は真顔で言うが、それも本気なのだろう。

この酒を宇宙で最初に飲む人は一体誰なんだろう、などと考えながら飲もうと思っているのに、いつも旨いので忘れてしまう。そういう理屈の抜きの面白いものが、理屈をつきつめている酒蔵から生まれている。だから酒はおもしろい。

獺祭 純米大吟醸 磨き二割三分
23%(77%)という極限まで磨いた山田錦を使い、最高の純米大吟醸に挑戦しました。華やかな上立ち香と口に含んだとき のきれいな蜂蜜のような甘み、飲み込んだ後口はきれいに切れていきながらも長く続く余韻。
使用米
山田錦
精米歩合
23%
容量
1800ml/ 720ml/ 300ml/ 180ml/
日本全国から崇高な酒造りの歴史を持つ酒蔵をセレクトし、そのデザイン性や哲学や思想をデザ インにしたコラボレーション企画。
酒蔵(SAKAGURA) UT 獺祭(グラフィックTシャツ・半袖)
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